岩手・木質バイオマス研究会は、木質バイオマス利用の普及を通じて、岩手の風土、地域性に根差した循環型社会の形成に資することを目的に活動しています。
設立:2000年7月5日
【事務所】
住所:〒020-0861 盛岡市仙北1-14-20
E-Mail:wbi★xg.main.jp(★を@に換えてください。)
※事務所は不在がちですので、ご用件はメールでお願いいたします。
2025年新年の代表ご挨拶「地域社会の自立に向けた一歩を踏み出そう」
この記事は林業新報に掲載されたものです。転載をご許可いただきありがとうございます。
岩手・木質バイオマス研究会 代表 伊藤幸男
新年あけましておめでとうございます。旧年中は、当研究会の活動にご支援ご助力を賜りましたこと厚くお礼申し上げます。
昨年は、元日に能登半島地震が発生し、不安な気持ちとともに幕を開けました。また、8月には、「南海トラフ地震臨時情報」が発表され、東日本大震災の記憶が甦り、しばらく緊張した日々を過ごすこととなりました。この不安な気持ちがコメ不足を誘発させた原因の一つとされ、日頃からの備えの重要さを改めて感じる出来事となりました。
当研究会では、昨年も定例セミナー等を定期的に開催しました。3月にはペレットクラブ代表理事の小島健一郎氏による木質ペレットの現状について勉強会を開催しました。5月には、(株)小友木材店による電動小型搬出機「山猫」の実演・体験会と岩手ウッドパワー社のESCO事業の取り組みを勉強しました。また、7月の総会時におこなった講演会では、小規模熱利用の普及に取り組んでいる(株)バイオマスアグリゲーション代表の久木裕氏より、対馬での取り組み等を紹介していただき活発な意見交換を行いました。
ところで、昨年の後半から年末にかけて、大きな政治イベントが続きました。9月末に行われた自民党総裁選とその後の衆院の解散・総選挙はこれまでにない注目を集めましたが、なんと言っても世界が固唾を飲んで見守ったのは、11月に行われたアメリカ大統領選挙でしょう。ご存知のように、ドナルド・トランプ氏が圧勝し、今年1月に二度目の大統領に就任します。アメリカ・ファーストを唱えるトランプ氏は、日本では独善的な発言を繰り返す「トンデモ大統領」というイメージで報じられることが多いのですが、彼の公約をよく見ると、我々「地方」に生きる者たちにとっても共感できる内容が含まれています。
例えば、彼の言うアメリカ・ファーストとは、アメリカの国益を最優先にすることと理解されていますが、本来の意図は、国民のためにアメリカ経済を立て直すことだと言われています。不法移民対策は公約の一つですが、アメリカには現在、不法移民が1,100万人居ると見積もられており、これがアメリカ国民の低賃金化を招き、さらには犯罪の温床にもなっていると考えられています。不法移民対策は、この状況を解消し、特に低所得層の国民の所得向上を実現しようとする政策だとされています。
また、政策実現の手法に関税を重視ていることも特徴です。昨年7月に発表された共和党の政策綱領において、全世界からの輸入に一律10~20%の関税を課すベースライン関税を課すことや、中国やメキシコに高率の追加関税を課す等の方針が示されています。この大胆な関税政策は政治的な駆け引きのようにも見えますが、基本的には自国の産業を保護し貿易赤字を減らすことが目的とされています。
ここで、多くの方が戸惑うのは、自由貿易を推進してきたのは、他でもないアメリカだったではないか、ということでしょう。我々、林業・木材産業の業界からすれば、1986年のMOSS合意、’90年の日米林産物合意、’93年のGATTウルグアイ・ラウンド、そして’95年以降のWTO体制へと、一貫して木材の関税引き下げの圧力がかかり、やられっぱなしの状況に甘んじてきました。また、’85年のプラザ合意に基づく円高ドル安誘導により、林業が解体寸前まで追い込まれたことも決して忘れることはないでしょう。つまり、1980年代以降の40年間、日本の林業・木材産業はアメリカの都合に振り回されてきたと言えるのです。
ではなぜアメリカは自由貿易を推進してきたのでしょうか。それは2つの面から説明できるでしょう。1つは、資本主義経済の視点からです。資本主義経済は拡大し続けなければ破綻する経済システムですので、永遠に市場を拡大し続けなければならない宿命にあります。あらゆる地域、あらゆる領域を商品化していくことで生き延びようとするわけですから、そこに関税はあってはならないのです。
もう1つは、アメリカ経済とドルの生き残り戦略の視点です。アメリカが覇権国家たり得たのは、第二次大戦後のドルによる金本位制=ブレトン・ウッズ体制の創設によるものでした。しかし、その後の財政赤字と貿易赤字により、海外に流出したドルが金の保有量を上回り、ドルの危機が高まります。こうして、金本位制を破棄する1971年のニクソンショックへと至るわけです。本来であれば、ここでドルは基軸通貨から後退するはずでしたが、そうはなりませんでした。1973年のオイルショック後、アメリカはサウジアラビアに原油価格の引き上げを認める一方、取引はドルで行うよう求めたのです。これにより、石油取引の通貨をドルに一元化する「ペトロダラー体制」が生まれ、石油取引で得たドルで米国債が購入されるという再循環システムが構築されたのです。アメリカは世界最大の対外純負債国であるにもかかわらず、ドルが依然として基軸通貨であり続けるのも、この「ペトロダラー体制」の寄与するところが大きいとされています。
しかし、ここで指摘しておきたいのは、このような体制維持を望んだのは、アメリカという国家あるいは国民自身ではなく、巨大な多国籍企業群だと言うことです。アメリカの経済力や軍事力を背景にグローバリゼーションを推し進め、石油やドル等様々な商品を通じて世界中から富を集積しているのです。その結果犠牲になっているのは他でもないアメリカ国民であり、トップ1%所得層がアメリカ国内の所得の20%を占めるという、極端な格差社会を形成しています。この状況がまさに臨界点に達したことが、トランプ圧勝の背景にあると言えるでしょう。トランプ氏は、このグローバリゼーションに真っ向から戦いを挑んでいるのです。
アメリカが大きく変わろうとする2025年は、新しい時代の幕開けとなるかも知れません。それに伴い、日米関係は大きく変化する可能性があり、経済を含め多少の混乱は避けられないのではないかと思います。しかし一方で、これは私たちの地域社会が様々な意味で自立する好機であるかも知れません。「人新世の資本論」の著者、斎藤幸平氏が言うように、真の「富」とは、誰もが自由に手に入れることができるきれいな水や空気であり、もっと言えば豊かな森林や食料など、私たちが生きるために不可欠な自然そのものでしょう。石油は社会的生産力を拡大させ、生活の利便性を大きく改善してくれましたが、一方でそれへの依存は、「富」を喪失し、グローバリゼーションを知らずに支持してしまうことにつながるのです。よって、脱化石燃料の取り組みは、ドルを基軸とする世界経済への従属から、地域社会が自立に向けて一歩前進することであると言えるでしょう。
私たちは、木質バイオマスエネルギーの普及を願って活動してきましたが、早いもので、今年で25年の節目を迎えます。グローバリゼーションへのささやかな抵抗ではありましたが、四半世紀に及ぶ活動を支えていただいた皆様に改めて感謝申し上げる次第です。薪一本、チップ一片、ペレット一粒が世界を変えるという思いを忘れることなく、今年も一歩一歩活動を続けていきたいと思っております。引き続きご支援ご助力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
◆2024年度通常総会代表挨拶
今年は岩手・木質バイオマス研究会設立25年目に入ったわけで、来年の総会が25周年になります。四半世紀の間会員の皆様に支えられてきたことを感謝申し上げます。
最近の活動は勉強会中心になっていますが、先日運営委員会をおこなった際にいろいろな話がでました。
一つは人口減少の問題で、岩手県では2015年から2020年の間に68,000人強人口が減っています。滝沢市の人口が55,000~56,000人なのでそれをはるかに超える人数で、釜石市と大船渡市を合わせたくらいの数字になります。毎年14,000人くらいずつ減っているわけで、相当な減少だと実感します。我々は人口減少社会に生きていると認識する必要があります。
二つ目はポスト木質バイオマス発電の時期に入っているということです。昨年からは一部の例外はありますが、固定価格の制度から市場連動型のフィードインプレミアムという制度に移行しています。今後10年くらいがその交代の時期に当たります。川井林業さんが岩手で初めて専焼の発電所を作ったのが2014年で10年経過しているので、これからの10年でFIT後の木質バイオマスの姿を考える必要があります。
三つ目は、岩手県が木質バイオマスの先頭を走っていたこともあり、震災前に導入されたボイラーが2、30年とか経って、修理・維持・入れ替えなどについて戦略的に考えていくことが必要な時期になっています。
いずれにしろこの先の社会に必要な木質バイオマスのあり方は小規模分散型であることは間違いないので一層この点を推し進めていく必要があります。
この記事は林業新報に掲載されたものです。転載をご許可くださった林業新報社に御礼申し上げます。
◆いわて木質バイオマスエネルギー利用展開指針(第3期)が策定されました。
岩手県では、木質バイオマスエネルギーの利用促進に向けて、これまでの取組期間における成果や課題を整理するとともに、社会情勢の変化を踏まえながら、「いわて県民計画(2019~2028)」第2期アクションプラン(政策推進プラン)における「再生可能エネルギーの導入促進」に関する推進方策等のうち、木質バイオマスエネルギー利用促進の展開方向を示すものとして、「いわて木質バイオマスエネルギー利用展開指針(第3期)」を策定しました。
詳しい内容は岩手県のホームページをご覧ください。
◆ 燃料用木質チップの生産・流通に関する提言
1. 目的
この提言は、熱利用を中心とした木質バイオマスエネルギーの主軸となるチップボイラーをさらに普及させるために、水分率等の品質に応じた燃料チップの生産及びその円滑な流通を促すことを目的としています。
2. 背景及び課題※
①岩手県はいち早くチップボイラーの導入が進みましたが、東日本大震災後導入が加速し、現在49台に至っています。
②その結果、熱利用に供される燃料チップは2010年の1,592BDtから2015年の8,526BDtへと5.4倍へと急増しました。
③チップボイラーの民間施設への導入が増加したり、チップ供給事業者も森林組合以外が増加するなど、その担い手が多様化しました。
④その結果、ボイラーと燃料チップのミスマッチが起き、導入施設でトラブルが起きたり、チップ供給者の負担が増したりするなどの事例が確認されました。
⑤燃料としてのチップは、水分率が低いこと、すなわち発熱量が大きいほど高い価格で取引されるべきですが、ほとんどの事例で発熱量の大小を評価し価格に反映させることなく、任意の価格で取引されていました。また、価格の基準となる根拠を理解している事業者はほとんどいませんでした。
※遠藤元治氏(本会会員)の研究成果より。
3. 提言
【提言1】
燃料チップの品質(=水分率=発熱量)を価格に反映させた取り引きを促すよう、需給双方への情報提供と合意形成を支援する。
水分率の低い(M45以下の)燃料チップを供給するためには、何らかの乾燥工程が必要となりコストが掛かり増しになることから、発熱量をベースとした、需給双方が納得できる取り引きに転換していくことが求められます。また同時に、水分率を管理できる燃料チップの供給業者を育成していくことが求められます。
【提言2】
発熱量をベースとした取り引きのためには、精度の高い簡易な水分計が不可欠であるため、そのような水分計の導入を促進する。
これまでも、簡易な方法で水分率を推計してきましたが、樹種が異なったり混じったりすると対応しにくいという問題がありました。水分率を把握することで、価格形成だけでなく、需給双方で水分率の季節変動へ対応できるようになるなど、様々な利点が生まれます。また、地域でどのような品質の燃料チップが供給可能か把握することは、チップボイラーを導入する際の重要な前提条件となるため、チップの水分率の把握は最も重要な事項です。
【提言3】
チップボイラーを導入する際は、その構想・設計段階から、燃料チップ供給を担う候補者と十分な意見交換をおこなう機会を持つよう促す。
地域で燃料チップを供給できる者は実際には多くなく、どのような品質のチップをどれぐらい供給できるかは、チップボイラーを導入する前にある程度把握することが可能です。しかしながら、チップボイラーの導入が決まったあとで供給業者の選定が行われることが多く、望まれる品質の燃料チップが確保できない、あるいは供給業者に負担を強いるということが起きています。この点からも、【提言1】及び【提言2】に基づき、事前の調整が重要となります。
【提言4】
チップボイラーの運用、燃料供給に関わる事業者の横断的な情報交換の場を設ける。
燃料チップは地産地消的に地域内で供給されることがほとんどで、一対一の関係で取り引きされることがほとんどです。そのため、岩手県でこれほどの導入事例があっても、どのような問題が起きているのか、どのような工夫がこらされているかなど、情報を共有する機会がありません。これまでの経験が生かされるよう、事業者の横断的な情報交換を行ったり、勉強会を行う場が必要です。
2017年9月
この提言について会員からは次のような意見が寄せられています。
○気仙沼の「気仙沼地域エネルギー」が行っているバイオマス発電でも チップの水分含有率の想定違いによる問題が過去に生じた。
プラントはドイツ製で、あちらではチップ材はカラマツ系で、こちらのスギ系で運転したところ自然乾燥が困難となる冬場に燃料不足となった。乾燥設備の追加を行い現状は良好となっている。
やはり、今後検討される方には最初から必要な情報だと思う。
○かつてスギの材を乾燥するのに苦労した経験がある。今年はチップを乾燥して社会に提供する元年になる。このことを岩手から日本中に発信することが大切だと感じた。乾燥したチップを作るためのインセンティブとして何ができるかの戦略を考えることが必要だ。
○天然乾燥のためにヤードごとにそれぞれノウハウを持っている。それらの蓄積は岩手の財産だと思う。燃料用チップは相対取引であるが、お互いにバイオマスエネルギーの可能性に関心を持ちサスティナブルな価値を見出している所が、石油のような価格だけで取引しているのと違う良さだと思う。
○乾燥チップについてデータがあれば付加価値が付く。あまり細か過ぎてはいけない。石油との比較で相手に納得感があれば評価される。
○乾燥チップが供給できるようになると、小型で安いボイラーが導入しやすくなり、普及の幅が広がる。
○水分管理をきちんとしたチップが供給できれば納入先が多角化し供給を増やすことができる。製紙用チップが今後伸びることは考えにくく、チップ業者が年間を通じたなりわいをつくっていく必要がある。
◆2011年に行った政策提言(要旨)
◆◆◆基本方針◆◆◆
・再生可能エネルギーに対する自治体の明確な姿勢が必要。
・地域が自立化していくことを重視し、地域住民の主体的な選択と地域資本の育成を促すことが重要。
・小規模分散型の熱利用をまず重視する。その経験の積み重ねの先に大規模な発電がある。
・地域ごとの特徴に配慮した、技術水準と資本規模を慎重に見極める必要がある。
地域住民が管理・運用できる、安定したローテクが重要。
・木質バイオマスの根幹である、林業が活性化し安定していくことが重要。
他との競争ではなく、新たな価値を創造し自ら価値実現できる範囲を少しずつ広げていくこと。
◆◆◆主な提言◆◆◆
・ 実践過程において、企業同士や消費者、地域住民の情報交換の場をつくる。
・補助金に依存しない、緩やかな規制や優遇措置等の施策を導入。
・ 木質バイオマス利用が森林経営の持続性に寄与するための制度を確立する。
・ 復興に際しては、再生可能エネルギーへのモデル地域をつくる。
・木質バイオマス利用は半径30キロ程度を目安とした範囲内で生産と利用の仕組みを構築する。
・エネルギー効率の高い住宅建築の推進と小規模分散型の熱供給システムの推進。
・地域資本を育成する観点から、民間ファンド、地元金融機関の協力関係を促したり、自然エネルギーへの投資を円滑にするための枠組みの構築が必要。
・木質バイオマスを中心とした熱利用、熱政策を重点的に進める。発電は当面、風力や太陽光で。
・ペレットの県内自給率を上げるための対策が必要。
詳しい内容は「資料」の中の「政策提言」のページからダウンロードしてご覧ください。